イスラエルちゃん

昨日は書きすぎた。だから今日は短めにしよう。
モンティーアレキサンダーとアーネスト・ラングリンの共演盤『ロックステディー』の存在を知ったのは、今や終了してしまった、バウンスの連載「踏切次第」で次松大助さんが紹介していたから。
凄いアルバムだ。何がって老人と言っても良いような二人が弾けまくっている。渋さ知らずとは彼らのことだ。たまに成熟したフレーズが聴かれるが、我に返ったように直ぐ日の光と戯れるようなどキャッチーな演奏を始める。ジャケットも素晴らしく、若者でもちょっと気恥ずかしくなるような無邪気な姿を披露している。タイトル・ロゴも抜群。たとえ彼らの名前とキャリアを知らなくとも、かなり気になるジャケットであるに違いない。
アーネストはジャズ・ギタリストとして偉大なキャリアがあるが、こんなにファニーでハッピーな横顔は見たことがなかった。青春というかイノセントに年齢は関係ない、と言わんばかり。「思考の整理学」の作者、外山滋比古氏をテレビで見たときも、その溌剌とした姿に圧倒されたが、元気なおじいさんはやはり最強だ。

Rocksteady

Rocksteady

パーフェクト

ここニ三日の天候から一転、まさに茹だるように暑い一日。天候の事を書くのは、これが日記の役割をしているのと、いつも書き出しを思いつかないからだ。
今日は妻がマナー教室のため早朝から恵比寿へ出かけたので、さて長い休日をどうしようか、というのは実は昨日から決めてあって、一人で映画を観にいくことにした。
当初「エル・カンタンテ」を観ようかと思っていたのだが、妻が自分も観たいと言い出したので、それではというのでもないのだが、今話題の「レスラー」はどう、と尋ねると承諾してくれた。
11時ごろ家を出る。映画を一人で観るなんて、多分学生時代にニール・ヤングのドキュメンタリーを渋谷で観て以来のことだから、何となくそわそわし、駅で缶ビールを思わず買ってしまった。
有楽町駅で降りて、向かうは日比谷のTOHOシネマズ・シャンテ。ちょっとだけ道に迷ったが、方向音痴&地図が読めない男の割には早く到着出来たと思う。
客層は、当初男だらけかと思っていたが、割と老若男女が揃っていた。女性一人で来ていた人もいて、ひょっとしてミッキー・ロークのファンだったのかな、と勘ぐってしまったが、きっと違うだろう。
この映画は、人が運命というものにどうしようもなく結び付けられている、ということをとても誠実に伝えてくれる。そのことを受け止めることは辛いかもしれないが、それに気づいた時人は自由になれるのかもしれない。エンド・ロールとブルース・スプリングスティーンの歌が終わるまで、誰も席を立たなかった。ひょっとしたらスタンディング・オヴェイションが起こるかもしれない、という雰囲気さえ感じたが、すすり泣く声が聴こえたくらいで、そうはならなかった。
その後妻が渋谷で待ち合わせたいというので移動し、タワーレコードへ一目散。1Fの1000円盤コーナーの試聴機で、今更のフェアグラウンド・アトラクション『ザ・ファースト・オブ・ア・ミリオン・キスィーズ』に感動する。「パーフェクト」はもちろん、アン・サリーのヴァージョンで聴いていた「ハレルヤ」など、素晴らしい曲ばかり。自分でもこのアルバムにたどり着くのにどうしてこんなに遠回りしたのか全く解せない。さすがに買おうと思ったが、中古ならもっと安いだろう病が発症し、結局保留。ワールドのコーナーでインストア・ライブをものともせず(素敵な演奏だったけれど)試聴しまくっていたが、これと言うのが見つからず、というか1枚に決められず(持ち合わせがなかったので)、ランディ・ウェストンとピート・ジョリーとガトー・バルビエリアスターピアソラを買う、のはまた今度ということにして、後ろ髪引かれながら店を出た。
妻と合流し、少しだけ買い物に付き合い、それから代々木公園を通って原宿駅まで歩き、品川で下車。晩御飯は初めての「品達」で、と決めてあったのだ。「初代けいすけ」で黒極ラーメンというのを食す。スープも麺も初めての味で、量も充分で大満足。いつもどおり妻の分も3分の2(期間限定の汁無し冷やし坦々麺)をいただき、さらに餃子も食べて(これもオリジナルな味)、最後はちょっときつかった。
それからまた横浜で降り、妻が東急ハンズに行くというので、その間当然ディスクユニオンのお世話になる。狙い通りフェアグラウンド・アトラクションのアルバムは630円で日本盤、かつ10%引き入りまして567円也。こういう小確幸に支えられて生きている気がする。
上大岡に着くと駅前のマックへ。新製品だというマック・シェイクのヨーグルト味(某ヨーグ○ットの味にそっくり。大好きだからグイグイ飲んだ。100円だしイイネ!)を飲んで足を休ませて、いざ丘の上の我が家へ。
という長い一日、と文にすればそう感じるが、実際はそうでもないのだろうか。疲れきってはいるけれど。こういうネタがある日は本当に助かる。

First of a Million Kisses

First of a Million Kisses

彼女とダンス

夏になると聴きたくなるシリーズ その四 ザ・マイスティース 「彼女とダンス」

彼らの曲を初めて聴いたのは、セカンド・アルバム『ミーティング』の時にリード曲としてPVが流れていた「素晴らしい日々」だった(http://www.youtube.com/watch?v=RpMYOga8Wdw)。当然ユニコーンの名曲を思い出して、カバーかと思ったら、とても軽快で朗らかなオリジナルのスカ・チューンで、日本語詞だったこともありしっかりと心に残った。その後すぐにそのアルバムを買い、だいぶ聴き込んだのだが、どうしても英語詞の曲に歯がゆさを感じていた。歌心に溢れながらオーセンティックなスカを愛するという類まれなキャラクターなのだから、当時主流だった英語で歌うバンドとは一線画してほしいと思った。そして次にリリースされたのが、インスト曲以外は全て日本語詞が乗った、とてもメロウでポップな、完璧と言ってよいロック・ステディー・アルバム『ベイビィ』だった。ミドル・テンポの曲が多く、歌詞もメロディーも情感が溢れていて、音楽ファンなら誰にでも伝わるはずの作品だ。シングル「霧の中」がPVともども名作で(http://www.youtube.com/watch?v=6VwN4fVtixk)、聴くたびに確実に胸を締め付けられる。レコ発ライブも見に行ったのだが、バンド的にも向かうところ敵無しという自信を身に纏い、まさにミラクルな時間と空間を演出していた(DVDになっている)。オープニングが「レモンの花が咲いていた」からのカリプソ三連打で、盛り上がらない訳がない。屈指の名曲「ネモ」ではイントロで卒倒しそうになった。思い出していくときりがないほど、あの夏の日のライブのことは覚えている。
「彼女とダンス」は、彼らの楽曲の中で一・二を争うほどユーフォーリアに溢れた楽曲で、ゆるやかなレゲエのリズムとともに永遠に聴いていたくなる。去年の10月にバリへ行った時、ホテルのビーチでこの曲を聴いたのを思い出す。そんな事を考えながら帰り道を歩いていた。

Baby

Baby

EXPO '73 アヴェニュー

朝方、荒れ狂うような雨で目を覚ました。こんな天候の中、出勤するのはかなり憂鬱だな、と思っていると出掛けにはほんの小雨になってくれた。仕事は休むな、ということか。
しばらくぶりにカバンに小西康陽氏のディスクガイドを携え、家を出た。電車の中でパラパラとめくる。デイヴ・ブルーベック『タイム・アウト』のために書かれた文章を読みながら、不覚にも嗚咽を禁じえなくなる。小西さんがこのアルバムを紹介する記事を読むのは恐らく三度目だけれど、そのどれもが本当に愛情に溢れた素敵な文章だと思う。「テイク・ファイヴ」ではなく、「タイム・トゥ・ゲット・レディ」そして「トルコ風ブルー・ロンド」の素晴らしさを教わらなければ、ひょっとしたらこの作品をいまだ聴いていないかもしれない。そんな事を考えていたら、すぐに電車は目的地へ着いてしまった。
仕事からの帰り、またしてもこの本を取り出す。そしてBGMは久しぶりの、というか通していまだ聴いた事がなかったワック・ワック・リズム・バンド『サウンズ・オブ・ファー・イースト』をプレイ。これがまた、夏の夜にグッと来る、素晴らしいアルバムだった。多彩な音楽性を「ファンキーなダンス・ミュージック」に落とし込む、技術も野心も創造性も高い凄い集団だが、彼らの音楽に最も感じるのは、「モッド魂」である。それは折に触れて出てくるスタカンっぽい要素であるとか、ジョージー・フェイムのようなブラッシーなオルガン・サウンドの曲であるとか、そういう表層的な部分だけでなく、とにかく様々な音楽のエッセンスを自らの審美眼により選び取り、誰よりもクールであろうとする、そのアティチュードから一番感じ取れる。「お荷物小荷物」のテーマをカバーするところにその心意気を痛感する。どの曲も本当に最高で、通して聴いてこその破壊力があったことを知り、今までの「ミッドナイト・ラウンドアバウト」ばかり聴いていた自分を情けなく思うが、自分内白眉を選ぶなら、ラストの「EXPO'73 アヴェニュー」。このアルバムのそれまでの曲たちと、ワックワックリズムバンドの歴史、そして好きな音楽へのオマージュを全てこの1曲に凝縮したような、あっさりに見えてかなり濃い目のエンディング・ソング。「イッツ・ア・スモール・ワールド」の世界観に近いものさえ感じる。ユアソングイズグッドのファンは間違いなく聴くべきだろう。こちらの方がキャリアはあるのだが。
小西さんならどんな風にこの作品を文章に書いただろう。

SOUNDS OF FAR EAST

SOUNDS OF FAR EAST

太陽の渚へ突っ走れ

夏になると聴きたくなるシリーズ その四 ダイナソーJR 「太陽の渚へ突っ走れ」

溶け出したビーチ・ボーイズか。サーフィン中に大波に飲まれて海中で見た幻想か。はたまたゆらゆら帝国がカバーしたウィーザーか。
要するに、陰と陽が絡み合ったサマーソングである。爽やかだけど、べとべとしているというか。砂浜で波と戯れた後、気がつくとワカメが足元にくっついている感じというか。
とにかく、僕は大好きだ。
この曲はシングル・オンリーだが、再結成前の最終作『ハンド・イット・オーバー』の特別盤は、そのシングルがくっ付いた2枚組だった。結局聴くのはシングルばかりだったので、お得だったかどうかは分からないが。
このシングル、カップリング曲も彼らにしてはポップを追求した良い曲で、夏っぽいと言えなくはない。
これが出た二年後、フレーミング・リップスの決定的名盤『ザ・ソフト・ブレティン』が発表されるのだが、その1曲目「レース・フォー・ザ・プライズ」を初めて聴いたとき、すぐに思い浮かんだのがこの曲だった。歌謡度と憂いとドライブ感をさらに推し進めた名曲だと感動した。だが夏に聴きたくなるのは間違いなくこの「太陽の渚へ突っ走れ」(原題は「テイク・ア・ラン・アット・ザ・サン」)だ。

太陽の渚を突っ走れ

太陽の渚を突っ走れ

妻の里帰り

吾妻光良さんの名曲に「妻の里帰り」という曲がある。
タイトルそのままの内容で、妻が三日間実家へ帰っている間の夫の生活を歌にしたものだ。
体に悪いものばかり並べて食べたり、ごみを散らかしたままにしたり、友人を家に呼んでドンちゃん騒ぎをしたり、いやらしいビデオをまとめて五本借りたりして、奥さんが戻った時に叱られる、という既婚者ならば誰もが共感するストーリー。
里帰りではないが、妻が出勤で僕が休み、という一日もかなり近いものがある。
しかし気の弱い私は、掃除機をかけたり皿洗いをしたり、そこまで大胆にはなれない。
それでも近所のスーパーで缶ビールなどを買ってきてグレゴリー・アイザックを聴きながらだらだらと過ごしていると、「妻の里帰り」の歌詞が頭に浮かんでくる。
結婚してから妻が一人で里帰りしたのはかつて一度くらいしかないが、その時も一日だけのことだった。
正直言って三日も家を空けられると寂しくて仕方ないので、そんなに暢気に楽天的な気分にはなれないだろう。
独身時代が懐かしいとか、一人の時間を有意義に過ごしたいとか、あまり思わない。
実際一人で映画館へも行けないし、喫茶店や飲み屋に入ったこともない。それは結婚する前も同じだった。
友人と待ち合わせているときも、遅れそうだから先に店に入っていてくれ、と言われても、店の外でおとなしく待っている。
こういう性格だと今後色々な所で障害が出てきそうだ。せめて一人で映画くらいは観にいけるようにならなくては。
妻は今週休みの日に銀座へ出かけて買い物をして「重力ピエロ」を観て、かなり充実した一日を過ごしたらしく、曰く「一人でも生きていけそう」。
これは夫婦として対等な関係とは言えない。自立心を自分の中に植えつけなければ。
ということで、今度一人で休みの日は、思い切って「エル・カンタンテ」を観にいって、帰りに一杯ひっかけて来ようと決意する。
今からドキドキしてしょうがない。

Squeezin’&Blowin’

Squeezin’&Blowin’

セント・トーマス

夏になると聴きたくなるシリーズ その三 ソニー・ロリンズ 「セント・トーマス」
このアルバムは中古盤屋のジャズのコーナーで何度も見かけていたので存在は知っていたが、いわゆる「ジャズ喫茶世代の名盤」というイメージが邪魔をして、どうも手が伸びないでいた二十代の頃。小川充さん監修の「ジャズ・ネクスト・スタンダード」シリーズや橋本徹さん、そして勿論小西康陽さんが推薦する作品ばかりを買いあさっていた僕に、「ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』の1曲目が最高なんだよ」と教えてくれたのは、あるギタリストの知人だった(その人は僕の結婚式の時ジャッキー&ロイの『ダブル・テイク』のCDをBGM用にと持ってきてくれた)。その人の人柄と音楽が大好きな僕は、その日から今までスルーしていたそのアルバムが俄然気になりだし、すぐその後に手に入れた。ドキドキしながらスタートボタンを押すと、聴こえてきたのはラテンのリズムとあの印象的なサックスのフレーズ。きっと様々な所でサンプルされ続けてきたはずの、時代を問わない音楽。その頃ラテンやカリビアン・ミュージックにはまり出していたので、いとも簡単に心に染み込んで行った。それ以来僕はモダン・ジャズ界の「ド定番作品」も出来るだけフォローするようになった。いや、本当はそういう作品から順番に聴いていくべきなのだろう。そういえば以前書いたレイ・ブラウンの『サムシング・フォー・レスター』はやはり彼の後期における代表作であったらしい。ド定番を敬遠するのはやめよう。ちなみにソニー・ロリンズの曲だと、デイヴィー・グレアムによる「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」のカバーが最高に好きだ。

サキソフォン・コロッサス

サキソフォン・コロッサス