EXPO '73 アヴェニュー

朝方、荒れ狂うような雨で目を覚ました。こんな天候の中、出勤するのはかなり憂鬱だな、と思っていると出掛けにはほんの小雨になってくれた。仕事は休むな、ということか。
しばらくぶりにカバンに小西康陽氏のディスクガイドを携え、家を出た。電車の中でパラパラとめくる。デイヴ・ブルーベック『タイム・アウト』のために書かれた文章を読みながら、不覚にも嗚咽を禁じえなくなる。小西さんがこのアルバムを紹介する記事を読むのは恐らく三度目だけれど、そのどれもが本当に愛情に溢れた素敵な文章だと思う。「テイク・ファイヴ」ではなく、「タイム・トゥ・ゲット・レディ」そして「トルコ風ブルー・ロンド」の素晴らしさを教わらなければ、ひょっとしたらこの作品をいまだ聴いていないかもしれない。そんな事を考えていたら、すぐに電車は目的地へ着いてしまった。
仕事からの帰り、またしてもこの本を取り出す。そしてBGMは久しぶりの、というか通していまだ聴いた事がなかったワック・ワック・リズム・バンド『サウンズ・オブ・ファー・イースト』をプレイ。これがまた、夏の夜にグッと来る、素晴らしいアルバムだった。多彩な音楽性を「ファンキーなダンス・ミュージック」に落とし込む、技術も野心も創造性も高い凄い集団だが、彼らの音楽に最も感じるのは、「モッド魂」である。それは折に触れて出てくるスタカンっぽい要素であるとか、ジョージー・フェイムのようなブラッシーなオルガン・サウンドの曲であるとか、そういう表層的な部分だけでなく、とにかく様々な音楽のエッセンスを自らの審美眼により選び取り、誰よりもクールであろうとする、そのアティチュードから一番感じ取れる。「お荷物小荷物」のテーマをカバーするところにその心意気を痛感する。どの曲も本当に最高で、通して聴いてこその破壊力があったことを知り、今までの「ミッドナイト・ラウンドアバウト」ばかり聴いていた自分を情けなく思うが、自分内白眉を選ぶなら、ラストの「EXPO'73 アヴェニュー」。このアルバムのそれまでの曲たちと、ワックワックリズムバンドの歴史、そして好きな音楽へのオマージュを全てこの1曲に凝縮したような、あっさりに見えてかなり濃い目のエンディング・ソング。「イッツ・ア・スモール・ワールド」の世界観に近いものさえ感じる。ユアソングイズグッドのファンは間違いなく聴くべきだろう。こちらの方がキャリアはあるのだが。
小西さんならどんな風にこの作品を文章に書いただろう。

SOUNDS OF FAR EAST

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