レッツ・ゲット・ロスト

6月8日、ロバの日。かどうかは知らないが、ともかく明日はロックの日(6月9日)である。どこかで何かが催されるのだろうか。明日は休日なので、近くにロックなイベントがあるのなら行ってしまうのもいいだろう。
と、こんな風に書き出して、それから自分にとってのロック名盤とは、というような話に持ち込もうかと思ったが、それはやっぱり明日にすべきだし、その前に書きたいことを思いついたのでやめておく。
昨晩「迷子の警察音楽隊」というイスラエル映画を観た。タイトルにとても興味を引かれ、何の予備知識もなく借りてみたのだが、これがとても良かった。
エジプトから派遣された音楽隊がイスラエルへやって来て、演奏場所の名前を間違えて違う場所へたどり着いてしまう。偶然立ち寄った食堂で食事をさせてもらい、その食堂の女主人の好意で、楽団の全員に寝床を提供してもらう。そんな一日の物語である。
穏やかに流れる時間と、とても暖かくて素朴な登場人物たちと、少しだけ切なくなるエピソード。芸術性とか娯楽性とか、そういったものに全く振り回されず、ただ淡々と人と風景を撮り続けている。たった今「かもめ食堂」に似ているかもしれない、と思ったけれど、もっと生々しい。「過去のない男」にも似ていると昨日は思ったが、もっと無意識な映画に思えた。簡単に言えば、たった今世界中のどこかで起こっていてもおかしくない話を丹念に記録した作品。とても良い映画だった。
その映画の中で、楽団一若くて男前なバイオリン奏者が、女の人を口説く時に口ずさむ歌がチェット・ベイカーの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」。顔も少し似ていると思ったが、声や歌い方がそっくりでびっくりした。そのあとトランペットも披露するのだが、こちらはちょっと分からなかった。エジプトとイスラエルとチェット。不思議な組み合わせのような気がしたけれど、多分あの退廃的で甘美な歌声は世界のどんな女性をもとりこにするのだろう。ちなみにこの曲が収録されている『シングス』で、僕が最も好きな曲は、「タイム・アフター・タイム」。胸の高鳴りを禁じえない。

チェット・ベイカー・シングス

チェット・ベイカー・シングス