ひとりもののラブレター

昨日の日記で、「手紙でも書こう」という歌について、「とくに男性は泣ける」と書いたのだが、あの歌の設定は男性だけが主人公になり得るものでもない、と気づいた。ちょっと歌詞を引用してみる(日本語訳詞:福島康之)
 
 窓辺に座って書いたラブレター
 君からの手紙のつもり
 甘いささやきに震える僕の胸
 熱いくちづけ 痺れちゃう
 
 「私の気持ち受け取めて欲しいわ」
 せめて一言君のものならば
 切ない思い慰めて欲しいだけ
 僕のポストに届きます
 
 君からの手紙のつもり


この歌詞の「君」を「あなたに」「僕」を「わたし」に変えてみても全く違和感がないように思える。男性目線でしか出せないペーソスがあるかと思ったが、女性を主役にしても同じような切ないおかしみがにじんでいる。確かに書いても出せないラブレターというモチーフは、男女どちらの歌にもよく出てくるが、こういうちょっと情けないけどロマンチックな歌は(情けない、というところがミソ)、女性には共感されないのではと思っていた。しかしこの歌は女性にもビンビン響くのではないか、と気づいた。なぜならこの歌は、ラブレターという形をとった「恋愛妄想」の歌だから。きっと女の人だって、日がな好きな相手と頭の中でデートしているだろう。そういう普遍的な恋愛の裏舞台(舞台裏)を、明るくスウィンギーな小唄にしてしまったのだ。ファッツ・ウォーラー、恐るべし。アル・カポネに見初められただけはある。
そして見事な日本語詞で演奏したバンバンバザールのバージョンは、この名盤に収録されている。他に「スウィート・スー」と「おまえの足はでかすぎる」をカバーしていて、どちらも絶品。また『できました』という前作では、「浮気はやめた」もやっている。何を隠そう、僕がファッツを聴くきっかけは彼らの日本語によるカバーだったのだ。だから、最初はバンバンから入るのもよかろう。だまされたと思って、是非。

歌は廻る

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